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映画作家とVRのカンケイ:アクション映画の名監督ポール・W・S・アンダーソンとVR

バイオハザード:ザ・ファイナル
VR元年となった2016年――これからあらゆることが始まるという年に、ある大ヒット映画シリーズの最終作が公開された。クリスマスイブ前日の12月23日公開の『バイオハザード:ザ・ファイナル』だ。
日本のゲーム会社カプコンが世紀末の1996年に発表したホラーアクションゲーム「バイオハザード」をもとにした映画シリーズは2002年の『バイオハザード』を皮切りに、14年間にわたって全6作が制作され、それぞれヒットを記録している。

僕はゲーマーではないのでひとりの映画ファンとしてこのシリーズを楽しんだし、主役のアリスを一貫して14年間演じ続けた女優ミラ・ジョヴォヴィッチのファンにもなった。

さて、今回はこのシリーズのプロデューサーであり、脚本家であり、『バイオハザードⅡ アポカリプス』(2004)を除いた5作では監督もつとめているポール・W・S・アンダーソンが「VR映画」について言及していると小耳にはさんだので、その話を紹介しようと思う。
最先端の撮影技術を駆使してダイナミックなアクション映画を制作してきた作家は、VRというテクノロジーについて、またそれと映画とのかかわりについてどう考えているのだろうか?

“じゃないほうのアンダーソン”と呼ばれる男

アメリカでは、映画ファンの間でよく知られているアンダーソン姓の有名な映画作家が3人活躍中である。
ウェス・アンダーソン、ポール・トーマス・アンダーソン、そしてポール・W・S・アンダーソンだ。
なかでも、今回の主人公ポール・W・Sは「じゃないほうのアンダーソン」と呼ばれていることで有名である。
映画ファンのジョークみたいなものだが、「ダメなほうのアンダーソン」という辛辣な呼ばれ方をすることもある。

確かに、3人のフィルモグラフィを観てみると、何となくそんなジョークを飛ばしたくなってしまうのもわかる。
ウェスとポール・トーマスはともに、作品を発表するたびに世界じゅうの映画祭に出品され、アメリカのアカデミー賞はもちろんのこと、世界3大映画祭と呼ばれるカンヌ、ヴェネチア、ベルリンの映画祭でも話題になる。
とりわけ、ポール・トーマスは3大映画祭でそれぞれ監督賞を受賞している、筋金入りの巨匠である。
いわゆる「アート系の映画」を好む人たちに、こよなく愛されている作家たちなのだ。

しかも、彼らの作品には「ゲージュツ家」っぽい嫌味や臭味がないので、一般ウケもそれなりに良い。
特にウェスの作品は、オンリーワンのアーティスティックな感じがありながらも基本的には軽妙な人情コメディなので、クスリと笑ってほろりと泣いて楽しむことができる。

ザ・ロイヤル・テネンバウムズ
父も母も子どもたちもみんなヘンな家族の悲喜こもごもを描いた『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(2001)や、ある高級ホテルの名コンシェルジュを中心に巻き起こるドタバタ劇をポップに、チャーミングに語りつつ、同時に歴史の光と影を格調高く描いた『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014)などが、個人的にはオススメだ。
ポール・トーマスの映画も個人的には大好きなのだが……長くなるのでやめよう。

一方、ポール・W・Sのほうはというと、「バイオハザード」シリーズのほか、SFアクション映画の怪物たちの「夢のバトル」を描いた『エイリアンVSプレデター』(2004)や、刑務所内で開かれる改造車のキケンなレースを描く『デス・レース』(2008)などを制作し続けている。

ほとんどの作品で自ら脚本を書き、プロデューサーもつとめ、タイトルを見るだけでも中身が予想できそうな「ポップコーンムービー」の作家に徹しているのである。

デス・レース
とはいえ、「血沸き肉躍るアクション」「思わず椅子から飛び上がる恐怖」などの娯楽要素に徹して作品づくりを行うその姿勢は見事で、テキトーに流さず、最新技術をしっかり取り入れて質の高い娯楽アクション大作に挑戦する彼の姿は清々しくさえある。

「じゃないほうのアンダーソン」というのは、決して蔑称ではないのだ。

ポール・W・S「VRにはアクションとかホラーが合いそうだよね」

あるインタビューでVRについて聞かれたポール・W・S・アンダーソンは、ある意味彼らしく、誰もが予想できた返答をしている。
曰く、「もし僕がVR映画を作るとしたら?そうだな、今までのキャリアでつくってきたジャンルを選ぶかな。ラブストーリーより、アクションやホラーのほうが合ってる気がするよ」

アクション、ホラー、そしてそのミックス作品を一貫して作り続けているポール・W・Sの言葉として、まったく予想の域を出ない答えだ――が、だからといって彼が『バイオハザードⅣ アフターライフ』で3Dを取り入れたように、すぐにでも次作にVRを取り入れる、というわけではないようだ。

これまでにさまざまな作家がVR映画の制作を表明しており、中国のチャン・イーモウは2017年公開の映画『長城』にいち早くVRを取り入れようかどうか考えている、とさえ言っている。
一方、ポール・W・S・アンダーソンは意外にも「慎重派」である。

「映画は観客の没入度を高める試みを、これまでにも行ってきた。たとえばサラウンドシステム――」
と、インタビューで彼は語っている。サラウンドシステムとは、スクリーンの正面、左右にスピーカーを複数設置して、音声が全方位から聞こえてくるシステムのことをいう。

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「――サラウンドシステムのおかげで、観客は銃弾が飛び交う現場に飛び込んだような気分を味わえることになった。VRも同じように没入度を高めるテクノロジーとして映画に導入することはできると思う」

でも、と彼は言うのである。
「――でも映画は、映画館でたくさんの人たちが一緒に作品を楽しむ娯楽だ。一方、VRは今のところ、ヘッドセットを付けてひとりずつで楽しむものだ。VRがひとりで遊ぶゲームの世界で革新的なことはわかる。でも映画となると……。今は静観の時期かな」

勢いのある大迫力の作品ばかりを撮ってきた監督としては控えめな意見だな、と思ったが、考えてみれば彼らしい意見だとも思う。
友達同士や恋人同士で観て、ワイワイと騒ぎながら観たり、キャッ!と彼氏に抱きついてみたり――そんなふうに愛されている映画を撮ってきた監督だと考えると、なるほど、当然の意見かもしれない。

とはいえ、現代の気鋭のアクション映画作家であるポール・W・S・アンダーソンのことだ、彼が作るVR映画は――もし作られるとするなら、肩の力を抜いて迫力たっぷりのスペクタクルを楽しめる作品になるに違いないわけで、映画ファンとしては「いつか作ってほしいな」と期待している。