歴史に残る大富豪のひとり、アメリカの“鉄鋼王”アンドリュー・カーネギー氏(1835~1919)は晩年、その巨万の富を社会に役立てるべく、惜しみなくさまざまな事業に資金を提供したことで知られる。
特に教育や文化関係の施設や各種の研究施設に資金を提供することに熱心で、アメリカにはカーネギーメロン大学やカーネギー研究所、カーネギー図書館、そして“音楽の殿堂”カーネギーホールなど、彼の名を冠した教育、文化、研究施設がたくさんある。
ペンシルバニア州にあるカーネギー美術館もそのひとつだ。
要するに、カーネギー氏は「良いお金持ち」だったのである。
「未来の大芸術家の作品をたたえたい」というカーネギー氏の思いから、カーネギー美術館はアメリカ初の「現代美術館」として、新しい芸術作品を積極的に展示する美術館となった。
そんなカーネギー美術館では今、ちょっとした「VR展覧会」が開催されている。
「僕らの未来」を、若手の芸術家たちが仮想現実の世界で表現した『Styles and Customs of the 2020s』という展覧会だ。
文字通り、「未来」といっても今から3年先の2020年を表現する、としている。
静かなるディストピアを体感できる展覧会
アメリカの若きVRクリエイターたちが描いた未来とは……?
と思って『Styles and Customs of the 2020s』を紹介するプロモーション動画を見てみると、大理石の展覧会場で人々がVRヘッドセットをつけ、何やら圧巻の体験に息をのんでいる――といった映像が流れる。
(※プロモーション動画はペンシルバニア州のニュースを報じるPennlive.comのYouTubeチャンネルで見ることができる)
――といっても、みんなビックリしているとか胸を躍らせているとかいうよりも、しみじみと味わっている感じだ。
それもそのはず。
『Styles and Customs of the 2020s』は、――世の中このまま進むと、こんな寂しい世界が待ってるかもよ?というVR映像を体感する展覧会なのだ。
急激に変動する気候や膨らむ社会不安、経済の劇的な変化、そして人の衰退……
そんな歴史をたどって、2020年にはかなり寂しいディストピア(反ユートピア)の世界が待っているかもしれない、そんな未来を表現した作品に触れることができる、という。
地球で最後のひとりに…
あらゆるタガが外れたかのように、静かに雲のうえを漂う樹木。誰もいない、骨組みしか残っていない家。
家の骨組みには小さな星条旗がからまって、パタパタ風に吹かれている……。
そんな寂しい未来が、僕らを待っているかもしれない。
3年後、実際に僕らは――というか、僕は、そんな風景のまっただ中に静かに立ち尽くすしかないのかもしれない。地球最後のひとりとして。
今、新しいテクノロジーを手にした現代の芸術家たちが、そんな作品を公開中である。
展覧会はカーネギー美術館にて、9月4日まで開催中だ。GWや夏休み、アメリカに行くときにはぜひ立ち寄ってみてほしい。