僕はやっぱり、「没入型ゲームを実現するテクノロジー」としてのVRよりは、「映像に革命をもたらすテクノロジー」としてのVRに興味を持っている。
今までとはまったく違う映画がつくられることに期待して、スティーブン・スピルバーグやリドリー・スコット、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥといった名だたる映画監督たちがVR映画を制作すると聞いてワクワクし、『シン・ゴジラ』(2016)のVRコンテンツを体験して感動している。
今回もVRと映画の関係について調べてみた。
ゴジラは別として、日本映画はVRとどのような関係を築こうとしているのだろうか?
スピルバーグやイニャリトゥみたいに、VRを活用しようとしている作家はいるのだろうか。どんな作品が日本から生み出されていくのだろうか。
それがテーマだ。
ただいま、「VR”DEAD”THEATER」展開中!
日本のいわゆる有名な映画監督たちは、今のところVRについて積極的に発言していないようだ。
『シン・ゴジラ』のVRコンテンツが発表されたとき、体験会には庵野秀明とともに映画の監督をつとめた樋口真嗣が登壇して、VRに期待しつつも、「VRと映画は違う」というスタンスを表明している。
スピルバーグは、「VRが映画業界に持ち込まれると伝統的な映画を破壊する恐れがある」という意味のコメントをしたが、樋口の思いもそれに準じるものだろう。
現代日本で、『ガメラ 大怪獣空中決戦』(1995)を皮切りに素晴らしい特撮の数々を表現してきた樋口だが、VRはやはり冒険すぎると判断しているのだろうか。
しかし、日本映画が完全に沈黙しているというわけではない、ということが分かった。
僕の守備範囲を大幅に逸脱するのだが、ホラー映画の世界ではすでに第一歩が踏み出されていた。
すでに今年の10月17日から、「VR”DEAD”THEATER」なるショートムービーシリーズがスタートして、第一弾ができているという。
確かに、日本でやるならホラー映画だろう。
1990年代以降、貞子(『リング』)や伽椰子(『呪怨』)といったキャラクターたちが静かな恐怖を振りまく「ジャパニーズホラー」が世界的に高い評価を受け、ハリウッドでもリメイク映画がつくられるまでになっている。
それに、VRという体験型のテクノロジーは、恐怖を味わわせることを至上目的とするホラー映画にはピッタリだ。
誰か観てみて!西村喜廣監督の『天獄処刑工場』
「VR”DEAD”THEATER」は現在、日本各地で展開している「VR THEATER」や、スマホアプリで鑑賞することが可能な短編映画のシリーズ。VR THEATERとは、ネットカフェ内にVRを設置して利用者が鑑賞できるようにしているサービスだ。
「VR THEATER」が利用できるネットカフェで見られるこのシリーズの、栄えある第一弾のタイトルは『天獄処刑工場』、監督は西村喜廣とクレジットされている。
西村喜廣はすでに10本以上の作品を世に送り出している映画監督であり、代表作は『東京残酷警察』(2008)。他に、スタッフとして特撮映画の特殊美術や特殊効果を数多く担当しており、有名なところでは『冷たい熱帯魚』(2011)や『進撃の巨人』(2015)が挙げられる。いずれも、映画としての出来はさまざまだが見事な特殊効果が光る作品だった。
『シン・ゴジラ』でも、特殊造形プロデューサーとしてクレジットされている。
こうしてみると明らかだが、ホラーはホラーでも、リアルなスプラッター描写を得意とするクリエイターであるということらしい。
彼が手がけた『天獄処刑工場』も、タイトルがすでにオドロオドロしい雰囲気満点だが、どうやらその手の作品であるようだ。
公開されているキャプチャ―映像を見る限り、観客はVRのヘッドセットを付けて主人公になりきり、タイトル通りのホラー世界を「体験」するものになるらしい。
「あるようだ」「らしい」といったことしか書けないのは、僕がホラーを大の苦手としているからである!
彼が関わった映画はいくつか観たが、いずれも素晴らしい特殊効果だった。あれを体験型のVR映画でやられるとなると、相当コワいにちがいない!
本来なら僕も体験してみるべきなのかもしれないが、今回は遠慮しておきたい。
誰か、観てきて!