100年以上も前、1890年代にフランスで「シネマトグラフ」が初めて公開されたとき、人々は驚いた。
一本の木がうつされた写真で、「葉っぱが風に揺れて動いている!」と。
それ以来、多くの驚異がシネマトグラフ=映画によって生み出されてきた。
テクノロジーの進化が映像を新たなフェーズへと押し上げ、色が付いたり、音が出たり……最近ではリアルに飛び出す立体映像に驚くしかない「3D」が実用化されたばかりだ(2009年の映画『アバター』が嚆矢とされる)。
そして今、全世界を驚嘆させ、夢中にさせている、早くも「中毒にどう対処するか」という議論までなされている「VR」が実用化された――今年、2016年はVR元年としてのちの世に記録される。
ところで、VR元年からさかのぼる1年前、2015年にも、実は映画を新たなフェーズへと押し上げるテクノロジーが実用化されている。「MX4D」だ。
これは「映画館のアトラクション化」ともいえるものであり、映像自体が飛び出すとか360度見渡せるとか、そういう変化を見せるようなものではない。映像自体に変化をつけるものではなく、映画館自体を改造したものだ。
MX4Dでメガロドンを観る
たとえば、MX4Dの設備が整った映画館に行って映画を観ると、スクリーンに映し出されたシーンに合わせて座席が上下左右に動く。
冷たい風が、あるいはあたたかい風が吹きつけてくる。首筋をそっと触るものがある。香りが漂ってくる……というふうに、視覚や聴覚以外の感覚に訴えてくるさまざまな工夫がなされているのが、MX4Dなのである。
つまり、映像をいじらずに映画館そのものの構造を変えることで、より人が映画の世界に没入できるようにするものなのだ。
もちろん、たとえば静かな雰囲気の文芸映画や、細部までじっくりと見て楽しみたいアート系の映画などでは、MX4Dは少しばかりうるさいものだろう。
しかし全編がアクションシーンで構成されているようなアドベンチャー映画などを観るとき、これまでには考えられなかった楽しい体験をすることができるのは間違いない。
実際、日本ではTOHOシネマズの一部でMX4Dのシアターを利用できるが、かけられる映画のチョイスにはかなり気を遣っているのがわかる。
ところで、今このMX4DとVRを組み合わせた――映画の没入度を飛躍的にアップさせたテクノロジーをまとめてブチこんだ映像作品を、鑑賞することができるようだ。
その名も、『DYNAMO VR TOUR メガロドン 伝説の巨大鮫』である。
深海の世界を舞台にした一大アドベンチャー!
メガロドンとは、体長が10メートル以上の巨大な怪獣のようなサメ。現在では絶滅しているが、200万年前には海の底をウヨウヨしていたという恐るべき存在である。
そんな古代怪獣の名をタイトルに冠したこの作品、中身は何となく想像できると思うが、舞台は深海で、キモは言うまでもなく「伝説の巨大鮫」であるメガロドンが登場することである。
動く座席でVRのヘッドセットをつけ、深海を進む潜水艇に乗り込む。美しいグラフィックで描かれたサンゴ礁、全体が淡いエメラルドグリーンに輝き、色とりどりの魚が泳ぐ楽園のような静かな世界。そんな世界に、タイトル通り圧倒的に巨大なサメが登場する。潜水艇の運命は――。
ちなみに、メガロドンという古代怪獣は日本にもどうやらいたらしいということが分かっていて、埼玉県では歯の化石が見つかっている。
そういう縁があるからか、『メガロドン 伝説の巨大鮫』は埼玉県越谷市にある「イオンレイクタウン」でのみ楽しめる作品となっている(11月から期間限定で東京ベイ舞浜ホテルでも公開中)。
360度見渡すとそこは深海の世界で、巨大なサメがわきを通り抜けるときに座席がグーッと揺れ、冷たい風が吹きつけてサスペンスを盛り上げる――MX4DとVRを活かした、まさしく「現実そのもの」というべき驚異の体験をすることができるのだ!
レイクタウンのVR CENTERは4席が横並びになっており、最大4人まで同時に楽しめるようになっているようだ。埼玉県在住の人は友達とわいわい楽しんでみることをオススメしたい。