いつの時代も、新しい技術は特に若い人たち、メジャーの舞台にこれから上がろうとする人たちにとって大きな武器になる。「VR映画」についてもそれは同じだ。
この、新しい映画――おそらく定着するまでに紆余曲折を経て、賛否両論を巻き起こし、大いにこれからの数年間で話題を振りまくであろう新しい映画も、スティーブン・スピルバーグやリドリー・スコットといった映画史に間違いなく名が残る大ベテランたちが関心を寄せる一方、若いクリエイターたちもこれを取り入れようと試行錯誤しているようだ。
そんな例のひとつを紹介しよう。日本の映像関係の若いクリエイターたちが発案者となって結成された、国際VR映画制作集団ともいうべき「NOMA」である。
「NOMA」が発足したのは2016年４月。まさにVR元年という時が生んだVRの申し子だ。
すでにこの制作集団はスピルバーグよりスコットより早く、VR映画を制作している。その数はすでに７本を数え、すべてオリジナルシナリオによる短編映画。中でも最も注目されているのが『Solid Time』という作品だ。上映時間は８分。スタッフ、キャストは日本を中心にアメリカ、ロシアから集まったメンバーである。監督をつとめたのは日本人で、太一という名の人物であるらしい。
森の川辺に男がひとり、女がひとり。
2016年11月現在、一般公開はされていない『Solid Time』だが、そのいくつかのヴィジュアルはインターネットで見ることができる。
映画のキーとなるヴィジュアルは、陰影が濃いながらも葉の緑や空の青がクリアに輝く美しい森の川辺に、男が佇んでいるという図。もうひとり、こちらに背を向けた女もいて、彼女は落ち着いた鈍色の川をじっと見下ろしている。
キーヴィジュアルの雰囲気からすると、美しい風景の中にシリアスな物語が展開する――といった感じの作品になるようだ。「NOMA」のウェブサイトを見てみると簡単なイントロダクションを読むことができ、監督・太一氏のコメントも読める。「スリラー」「ミステリー」といったジャンルに分類される作品である、とのことだ。
気になる映画の中身だが、予告編が公開されていないので、どのような映像になるのか今は文字で説明されているのを読んで想像するしかない。
周囲360度が解放されたVRの映像の中でスリリングな物語が進行しつつ、シネマスクリーンが風景の中に設置されて重要な場面を映してくれる、というものらしい。
美しい色合いの森の風景を味わいつつ、物語の場にじかに立ち会い、見るべきものはきちんと教えてもらえる――そういう感じか。シネマスクリーンが空間の中に出てくる、というところは、PSVRのシネマティックモードを使う感じに近いのかもしれない。
世界の映画祭に出品中！一般向け無償公開も予定！
「NOMA」の意欲作『Solid Time』は現在、世界中の新しいインデペンデント系映画が集結する映画祭に出品中であるらしい。
たとえば、アメリカで開催されている「サンダンス映画祭」。ハリウッドスターとして現在も活躍し、いずれも味わい深い名作である『普通の人々』(1980)や『リバー・ランズ・スルー・イット』(1992)といった映画で監督としても評価されているロバート・レッドフォードが設立した映画祭だ。
サンダンスで認められて賞を獲得した監督の多くが、現在ではメジャーな作品を撮る作家へと成長している。インデペンデント業界では、けっこう権威のある映画祭である。
あるいは、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」。「ぴあフィルムフェスティバル」と並んで、若手映像クリエイターの登竜門として知られる。世界中からユニークな作品が集まり、海外でも高い知名度を誇る映画祭である。
サンダンス映画祭は2017年１月、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭は３月に開催される。
これらの映画祭では賞の審査員に加えて観客が作品を見て、グランプリや監督賞といった賞の他に観客賞も設けられている。一般の人たちがどんな反応を見せるのか、今からとても楽しみだ。
ちなみに、『Solid Time』については現在、無償公開という形での一般公開も決まりつつあるところのようである。