VR元年の今年も師走を迎え(これを書いてる今日は12月14日)、しかし今もなお続々とVR関係の最新情報が更新されている。僕が多大な興味を寄せる「VRと映画」に関する情報も多い。
たとえば、ある筋からの情報によれば、このたびフランスはパリにある「映画遊園地」ともいうべき施設である「mk2ビブリオテーク」に、VRコンテンツを鑑賞できる設備の置かれることが決定した、という。
「mk2ビブリオテーク」は2003年に開設された施設で、フランスにおける大手映画配給会社のひとつであるmk2が運営している。
建物があるパリ13区は近年開発が進んでいる地域であり、「未来の技術」であるVRにはよく似合う。
“映画をわかってる人”がつくった遊園地:mk2ビブリオテーク
このたび、スペースの広さが300平方メートル以上という巨大なVRコーナーが設置されることが決定した「mk2ビブリオテーク」を運営するmk2という映画配給会社の創立者は、ひとりの映画作家だった。
つまり、「映画がわかってる人」によって設立された会社である。だからこそ、ファンの心をくすぐる「遊園地」を作ることに成功したのだ、ともいえるだろう。
彼――マリン・カルミッツは1938年生まれ。
1960年代、当時世界の映画をリードして最も先鋭的な作品を生み出していた「ヌーヴェル・ヴァーグ」の映画監督たちのスタッフとしてキャリアをスタートさせた。
1980年代からはプロデューサーに専念し、クロード・シャブロルやアッバス・キアロスタミなど、映画史にその名が燦然と輝く作家たちの作品をプロデュースしてきた。
ちなみに、カルミッツがプロデュースした多くの作品のなかで個人的にオススメの作品は、『沈黙の女/ロウフィールド館の惨劇』(1995、監督クロード・シャブロル)、『トスカーナの贋作』(2008、監督アッバス・キアロスタミ)などだ。いずれもミステリー作品だが、文芸色の濃い深い味わいが特徴的である。
「mk2ビブリオテーク」が「映画遊園地」と呼ばれている理由は、もともと開設当時から、映画館としてだけでなくさまざまな映画に関するショップが入っている施設だったからである。
ひろびろとしたカフェでは濃いコーヒーを飲みながら、施設内の書店で購入した映画関係の本をゆっくり読むことができる。書店の品ぞろえは偏執的なまでに映画にこだわり、その歴史について語ったものや、ある監督の評伝、映画を分析した評論集など幅広いラインナップである。
そのほか、映画関係のグッズ(ポスター、サウンドトラックCDなど)を販売する店があり、世界最大の品ぞろえを誇り、一度販売されたものならすべてここで見つかるとさえ言われているDVDショップもある。
映画ファンの僕としては、まる1日かけても堪能しきることはできないであろう、驚異の遊園地なのだ。
そこにもってきて、さらにVR設備も追加されるという。――やれやれ、これではもうパリに住むしかないではないか!
映画の生まれた国、フランスで新しい映画体験を。
「mk2ビブリオテーク」のVRコーナーは、どのような目的をもって設置されるのだろうか。
mk2の現社長は、インタビューでこう発言している、「活気ある施設で、文化的なテクノロジーを楽しんでもらうこと。新しいことを求める人に、それを経験してもらうこと」
思えばフランスは19世紀、「世界初の映画」と呼ばれるリュミエール兄弟の「シネマトグラフ」を生み出した国である。
リュミエール兄弟は世界で初めて、多くの人が同時にスクリーンに目を向けて楽しめる映画を開発した(それ以前の映画の楽しみ方は、トーマス・エジソンが発明した「ひとりでのぞき込むタイプの映写機」である「キネトスコープ」を使うことだった)。
映画の喜び――今、僕を含めて世界じゅうの映画ファンが味わっている喜びを生み出してくれたのは、この国だった。そこで今、最新の「映像技術」であるVRを楽しめる施設が誕生する。――なかなか良いニュースと言えるのではないだろうか。