日本では2016年10月に発売され、現在では品切れ状態になっているPSVR。
これを書いている2017年2月24日は、新たな入荷日の前日である――2月25日、全国の電機ショップの店舗やオンラインショップで販売されることになっている。
人気ゲーム「バイオハザード」シリーズの最新作『バイオハザード7』はVR対応ということで、そういう意味でも、ゲーマーの皆さんにとっては“熱い日”になるに違いない。
ところで、そんなPSVR向けに制作された1本のVR映画がひそかな話題を呼んでいる。
日本のCG映像制作会社wiseによって制作されたその映画、タイトルは『眠れぬ魂 RESTLESS SPIRIT』だ。ジャンルはホラー、上映時間は約15分。
短編だが、この作品には「VR映画」を大きく変えるかもしれない画期的な仕掛けが施されている。
発売は2017年4月を予定しているという。
「映画の再発見」
「全く新しい映像体験を想像する」
この作品の公式サイトには、そのようなフレーズが見られる。
映画であり、同時に別の要素を持つ、“新たなVR映画”を志向しているのだ。
ゲーム性を盛り込んだVR映画
娘を失った悲劇の父親の前に、ある夜、娘の霊が現れる。単に現れただけではないらしい。彼女は父親に何かを伝えようとしている。彼女の霊=魂は眠れずにいるのだ。いつしか父親は彼女に導かれ、深い闇をたたえた森の奥へ、奥へと入り込んでいき……。
あらすじを書いているだけでゾクッとくる何かを感じてしまう『眠れぬ魂 RESTLESS SPIRIT』は、主に霊に導かれる父親の目線でホラーストーリーを体感するVR映画に仕上がっているようだ。
周囲360度を濃い闇に覆われた森のなかで、僕たちは何を目にするのか――実際に鑑賞したら固唾をのんで結末を待つことになりそうな作品だが、この作品は単にあらかじめ設定されているストーリーを目で追う従来の映画とは違った作品になるようだ。
というのも、この映画には約15分の上映時間の中にさまざまな「トリガー」が用意されているのである。
トリガー、引き金。つまり何かが起こる「きっかけ」だ。
たとえば「イベント・トリガー」というものがある。
公式サイト上で説明されているところによると、これは観客が仮想現実のなかで視点を動かしたとき、「時間軸での編集とは異なる映像体験を可能にする」というものらしい。
映画のストーリーは「少女の霊に導かれて僕たちが目にするものとは?」というサスペンスを直線的な時間軸で語るものになっている。
しかし「イベント・トリガー」の存在によって、従来の映画が「回想シーン」をはさむように、結末へとストレートに向かう時間軸とは別の時間軸上で語られるシーンのなかに入っていくことになる……。
と、そのようなものなのである。
また、主人公である父親の目線でVR映画を体感する僕たちが「何を見るか」を選ぶことによって、エンディングが変わる仕掛けになっているという。
このように、映画でありながら同時にシナリオゲームのような要素も盛り込まれている、刺激的な「VR映画」になっているのである。
“新たな映画”の誕生
かつて――といっても去年のことだが、スティーブン・スピルバーグはVR映画に対する危惧を述べて、ここでも折にふれて何度か言及してきた。
希代の映画作家は、「VR映画は伝統的な映画を破壊する可能性がある」と示唆した。
VR空間では僕たちは好き勝手に周囲360度を見回すことができる。
監督やカメラマンが見せたい風景を、僕たちは見逃してしまうかもしれない。
監督や編集マンが意図したタイミングとは違うタイミングで、映画を体感することになる。
それでは、「監督やカメラマンや編集マンによってつくられた映像を見る」という映画鑑賞は、成り立たないことになる――。
「映画の再発見」を掲げた『眠れぬ魂 RESTLESS SPIRIT』は、ある意味ではスピルバーグの危惧を逆手にとったものである、といえるかもしれない。
周囲360度、どこでも見ることができる――そんなVRならではの特徴を活かしたのが、この作品なのだ。
どこでも見ることができる。
そのことによって、ストーリーは複雑に変化し、結末も変わっていく。
『眠れぬ魂 RESTLESS SPIRIT』は、伝統的な映画を破壊しない。
それは、“新たな映画”なのである。