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映画作家とVRのカンケイ:リドリー・スコットは何を作ってくれるのか

リドリースコット今年、2016年はVR元年といわれている。日本ではPSVRが10月13日に発売されたと思ったらたちまち売り切れになっていたりして、ちょっとしたお祭り状態だ。僕はこの「お祭り」には今年から参加したわけで、PSVRの発売寸前までほとんどノーマークだった。しかし、少なくともお祭りの発端は今年以前からあったようで、今の僕は完全に後追い状態だ。

たとえば2015年のネットニュースには、ハリウッドで活躍している映画監督、リドリー・スコットの『オデッセイ』(2015)のVR版予告編がアメリカで公開された、というものがある。
火星にひとり取り残された宇宙飛行士が周囲360度に広がる異世界に呆然とたたずむ様子を体験できる……そんな予告編になっていたらしい。ヘッドセットを付けたVRの視界では、さぞ火星の風景は胸に迫るような恐ろしいものに見えただろう。

しかもスコット監督、VRという技術に関しては大いに乗り気らしく、2015年10月の段階ですでにVRコンテンツの制作を発表している。
すでに制作と2017年の公開というところまで決まっていた『ブレードランナー』(1982)の続編にあたる『Blade Runner2049』に関する作品なのでは?というウワサが飛び交ったようだが、スコット監督は明言を避けたという。

スコット監督のVR作品は『Blade Runner2049』とは無関係?

実際、今年に入ってから『Blade Runner2049』についての情報が新たに公開され、リドリー・スコットはプロデュースに回り、監督はカナダ出身のドゥニ・ヴィルヌーヴが務めることが発表されている。
ヴィルヌーヴは、過酷で不条理な世界を計算された画作りと独特の映像美で描いた『灼熱の魂』(2010)や『複製された男』(2013)といった作品で注目されている、新進気鋭の映画監督だ。進化していながらもどこか退廃的なムードをたたえた「ブレードランナー的未来都市」を描くには、適切な配材といえるだろう。

そして、同時期に『Blade Runner2049』の世界観を描くVRコンテンツも制作されることが発表された。
しかしニュースでは、制作にあたるのはVR機器のOculus Riftを開発したオキュラス社である、とされているだけで、そこにスコット監督の名前はない。
彼が制作するVR作品は、『Blade Runner2049』とは関係ないものなのだろうか。

VRスクリーン

何にせよ、素晴らしい作品が出来上がるに違いない!

リドリー・スコットはイギリス生まれの映画監督で、現在でこそ増えているが当時は珍しかったCMディレクターから映画監督になった人物である。
1979年の『エイリアン』でハリウッドのトップ監督に躍り出て、以降は古代ローマの時代を奥行きのある映像美で描いた大作『グラディエーター』(2000)や、一貫して兵士の視点ですさまじいソマリアの戦場を描ききった『ブラックホーク・ダウン』(2001)など、映像にこだわりつつ、ダイナミックな人間ドラマを描いて高い評価を受けている。
1982年に発表された『ブレードランナー』は、一見美しく発展した未来都市に巣食う病理と、生きることの意味を問い、切なさを描いた異色のSF作品だ。
公開当時はそれほど話題にならなかったが、その映像美術が時代を経るごとに評価を高め、現在では映画史に残る名作のひとつに数えられている。

個人的には、大好きな俳優の松田優作が悪役を魅力的に演じた(そしてこれが遺作になった)『ブラックレイン』(1989)なども捨てがたい。
この映画の多くのシーンは日本でロケされているが、見慣れた風景がリドリーの目を通すとまるで異世界のようだ。よく評論家たちが言うように、リドリー・スコットは80年代の日本を『ブレードランナー』で描いたような未来都市に見立てて撮影したのだろう。
あのような日本の風景は、世界のどんな映画監督も(日本の監督も含めて)撮っていない

彼は独特の審美眼を持っていて、古代ローマや80年代の日本や内戦下のソマリアは、独自のフィルターを通した世界として表現される。
そんなスコット監督のフィルターを通して作り出されるVRの世界はどんなものになるのか……。
その内容は今のところニュースから計り知れないが、楽しみにしながら待ちたいと思う。素晴らしい作品が出来上がることは間違いないのだから。