いつの時代も、新しいテクノロジーは若者たちを引き寄せる。
VRも、そんなテクノロジーのひとつだ。若手の技術者たちが次々に新しいVRデバイスを開発し、若いクリエイターたちがVRコンテンツを制作する。
今回は、そんな“若い力”が生み出したVR短編映画『Say It With Music』を紹介しよう。
約4分の上映時間を予定しているこの作品は2016年、アメリカのジョージア州にある芸術系大学、「サバンナ芸術工科大学」の学生たちによって制作された。
その年、学内で開催された「サバンナ映画祭2016」で発表されて高い評価を得て、年をまたいで今年、アメリカで公開が決定したという。
2017年3月16日現在、日本での公開は決定していないが、YouTubeのサバンナ芸術工科大学の公式チャンネルでは、劇中映像や制作風景をおさめた約2分間の映像を見ることができる。
それを見る限り、なんだか楽しそうな作品になっているようだ。
というのもこの映画、ジャンルとしては「ミュージカル映画」である。
歌って踊れる、思わず体が動き出す――そんな作品を、周囲360度を自由に見回せるVRで体感する。
なかなかユニークな体験が味わえそうだ。
どっちを向いてもストーリーが進行中!
サバンナ芸術工科大学の学生たちは作品づくりにあたって、VRを使った映画ならではの魅力を出そうと考えた。
彼らが出した結論は、――「4分間という上映時間の中で、さまざまな場で起こる物語を描く」ということだった。
舞台はアメリカのどこかにある、お店の内装や料理は立派だけれどイマイチ人気のない高級レストラン。
主人公は、そんなレストランに勤めるウェイトレスのシモーネちゃん。
彼女はある日、歌や踊りでレストランの雰囲気を盛り上げることを思いつく。
そんな中、周囲では堅物オーナーのグスタボ、ウェイターの青年ネイサン、そしてレストランを訪れるお客さん30人のストーリーがそれぞれに進行して――
というのが、映画『Say It With Music』のあらすじ。
クリスマスソングの定番「ホワイト・クリスマス」を作詞・作曲したアーヴィング・バーリンが手がけたキュートなラブソング「Say It With Music」を下敷きにしたというこの作品、
「パッと見ると4分で終わってしまう作品だけれど、じっくり見ようとすると45分かかるんだ」
――そう語るのは、映画のプロデューサーをつとめたジョシュア・ハワード氏。
「だから、何度でも観ようと思える。面白いだろう」
前後左右、とにかくいろんなところで、実に総勢36人のキャストが登場し、音楽が流れる中でさまざまなストーリーを見せてくれるという。
このストーリーの語り方は、VRならではのことだといえるだろう。
これまで、演劇で、あるいは映画で数多くのミュージカルが描かれてきた。
『サウンド・オブ・ミュージック』、『アニー』、『雨に唄えば』、『レ・ミゼラブル』など――。
それらの作品を鑑賞しながら思わず一緒に歌ったり、体を動かしたりしたくなって、でもまわりにじっと座って鑑賞している人たちがいるのでガマンして――
という人は多いだろう。
僕もそのひとりだ。
若者たちのアイディアが、そんな僕たち観客の願望を叶えるミュージカルを、VRを活用してついに生み出してくれたのである。