“映画の父”の国アメリカでは大小さまざまな映画祭が開催されていて、そんなアメリカの映画祭において今やVRは欠かせない存在のひとつである――といっていいと思う。
たとえば知名度でいえば世界一を誇る「アカデミー賞」では、今年2月に開催された第88回の賞においてVR短編アニメ映画『Pearl』が「短編アニメ部門」でノミネートされていた。
あるいは、インデペンデント映画の祭典である「サンダンス映画祭」は、VR元年(2016年)から一貫してVRに注目し、展示イベントを開催している。
さて、――
アメリカ合衆国の南に位置するステーキが美味しいテキサス州のオースティンという街で3月に開催されたサウス・バイ・サウスウェスト映画祭でも、「VR×映画」に関するニュースが発信されたようである。
テキサス州オースティンでは、1987年から毎年、音楽、演劇、新興企業(新たなアイディアを掲げてビジネスシーンへ飛び込む企業)の展示会や講演会、そして映画――さまざまな分野の祭典が、「サウス・バイ・サウスウェスト」という大々的な催し物として開催されている。
そんなサウス・バイ・サウスウェスト映画祭で、新作VR映画『TRINITY』の予告編が公開され、監督とプロデューサーがインタビューに答えた――そんなニュースが入ってきた。
人類滅亡後のアンドロイド戦争を描くSF×VR映画
映画『TRINITY』は、カナダに本拠を置くVRコンテンツの制作会社「UNLTD」が去年から取りかかっていたプロジェクトで、2016年秋からチェコのプラハで撮影を開始。
現在、動画サイト「Vimeo」上で見ることができる予告編では、中央ヨーロッパのしっとりした空気感が漂う中、異形の集団が銃を手に闘争を繰り広げているさまが描かれている。
廃墟の中で、退治した白い集団と、ごつごつした全顔マスクをつけた黒い集団が対峙している。
“白い人たち”はどうやら人間ではなく、“黒い人たち”の正体は定かではない――。
そこは、人類が滅びたあとの地球。
残されたアンドロイドたちが生存をかけ、“創造主”たちと熾烈な戦いを繰り広げるSEアクションをVRで表現した映画作品――というのが、今わかっている『TRINITY』のすべてだ。
映画は15分の短編が全5話、ほぼすべてのVRヘッドセットに対応――ということなので、PSVRを持っているあなたも、Oculus Riftを愛用している彼も、HTC VIVEを使っている彼女も――誰もが、この映画の「体験者」になれる。
プロデューサーにして映画の脚本も執筆したというジョン・ハミルトンさんによると、
「『TRINITY』を鑑賞する人は、映画の中を動き回ることができるようになっています」
とのことだ。
「UNLTD」はこの映画を制作するために独自にVR専用カメラを開発し、没入感たっぷりのSFアクションを体感させてくれる、ということなのだ!
作品は完成に向かって着々と進んでおり、「パイロット版」すなわちエヴァンゲリオンでいうところの「試作零号機」的な作品――要するに作品の魅力を端的に伝える「エピソード0」が、今年の秋に公開予定という。要注目だ!
監督は『IRON BABY』のパトリック・ボイビン!
ところで、映画――あるいは映像作品を愛するヒトとしては、この映画の制作にあたって現場の指揮をとった監督の存在にもぜひふれておきたい。
『TRINITY』のメガホンをとったパトリック・ボイビンさんは、実はこの作品が“世界初お目見え”ではない。
劇場用映画作品の監督としては世に知られてないが、ネットのオモシロ動画を見るのが好きな人、あるいは僕のように映画『アイアンマン』(2008)が好きすぎてネットでいろんな動画を見ている人なら、ピンとくるであろう人物。
というのも、彼はカナダにて人気映画のパロディ動画を制作していて、2010年に発表した『IRON BABY』なる作品がYouTube上で公開されるや「カワイイ!」と全世界で絶賛され、僕みたいな『アイアンマン』ファンの目にもとまった――ということなのだ。
『IRON BABY』――つまり、「アイアンマンの赤ちゃん版」の短編動画を制作しちゃったのである。
あどけない顔をした赤ちゃんが、アイアンマン・スーツを身につけて悪いヤツをやっつけに行く――という、あらすじだけを見れば完全なる「ネタ動画」だし、確かにあらすじ以上のことはなーんにも起こらない平和な作品なのだけれど、なかなかどうしてCGもしっかりしているし、クオリティは高いのである。
というわけで、一部でその名を知られたボイビン監督――プロデューサーのハミルトン氏と登壇した映画祭の場では、『TRINITY』について「VR作品」であることよりも、もっぱら「アクション作品」であることについて語ったようである。
「(シリアスな)アクション要素のある作品を撮ることは、僕のフィルモグラフィからみるとユニークなものだといえる」
というのが、彼の言葉として伝えられている。
いずれにせよ、「UNLTD」が歳月をかけ、ジョン・ハミルトン氏が絶対の自信を持ち、ボイビン監督のセンス・オブ・ヒューモアがあれば、『TRINITY』も素晴らしい作品に仕上がるに違いない――そう思う今日この頃である。