VRはヴァーチャル・リアリティ、つまり仮想現実の世界を体感できるテクノロジーである。
僕たちが決して行けない場所に、VRヘッドセットを装着するだけですぐに行くことができる。
再現された「戦艦大和」の館内を歩き回ったり、『スター・ウォーズ』の宇宙戦闘機を操縦して帝国軍と渡り合ったり、あるいはベッドで僕らを誘うポルノスターの部屋に行ったり……。
そう、VRが発達を続ける果てには、そんなバラ色の世界も控えている。
ポルノ女優やAV女優のいる部屋でひとときを過ごすことができるのだ――もちろん、これを「バラ色の世界」と感じるのは、多くは男性だろうけれど……。
今回の主人公は、そんな「アダルトVR」の世界で活躍するひとりの女優である。
女優エラ・ダーリンとVR
2015年――世界が「VR元年」を迎える1年前、発展途上だったVRにいち早く目をつけていたポルノ女優がアメリカにいる。
自作のサイトでVRライブ中継を行うところから始め、現在でも代表をつとめるアダルト専門のライブチャットサイト「CAM4VR」を通じて、積極的に、身を張って「VRアダルトコンテンツ」を世に送り出している。
彼女の名はエラ・ダーリン。
すらりとしたスレンダーなボディ、処女雪のような白くなめらかな肌……目もとのあたりにちょっぴりアンニュイな色がある美しい女優だ。
アメリカのポルノ業界と言えば、重戦車のような、いわゆる“ボンキュッボン”のセクシーボディを誇る女優が多いイメージだ。
そんななかエラはわりと控えめな体つきで、「洋モノ」を見慣れない日本人男性にも好まれそうな存在感がある。
ポルノ女優としてはベテラン中のベテランであり、現在のところ出演作品は2000本以上。
まさしく「ポルノスター」の名に恥じないキャリアを誇る女優なのである。
そんな彼女は今、アダルトVR業界における美しき代表者として、メディアに登場している。
VR Daysのエラ・ダーリン
2016年11月、オランダの首都アムステルダムで「VR Days」というイベントが開催された。
このイベントは、エンタメ業界をはじめ、さまざまな分野におけるVRの可能性について発表が行われるというものだった。
各界でVRに関わる人物が、それぞれの業界とVRのかかわりについて語った。
ここに、エラの姿があった。
エラは単なる出席者ではなく、VR技術の開発者などとともに発表を行う立場として参加した。
2015年に個人サイトを通じて「アダルトVR」のコンテンツを発信していた――その姿勢を買われて、参加を要請されたのである。
彼女が発表に際して与えられたテーマは、『VRポルノはアダルト業界を“人間的”にするか?』だった。
発表後、質疑応答の場で『VRの登場で人と人とのつながりのカタチが変わりつつある感じがするが、その点はどうか』と尋ねられた彼女は、以下のように答えた。
「私はアダルトVRに、人に癒しを与えるチカラがあることを発見しました」
「VRの技術を使い、人は自分を孤独にさせないようにすることができます。私は『CAM4VR』のプロジェクトを通じてそれを実感しています」
また、こうも語っている。
「私が関心を持つのは、いつでも、人間についてです。私は、VRを利用した人と人との双方向コミュニケーションについて考えています」
ライブチャットサービスの代表をつとめる希代のポルノスターは、単なるVRコンテンツの作り手ではない。
彼女はパイオニアのひとりだ。
VRを、人と人とをつなげるコミュニケーション・ツールとして活用する道。それを模索しようとしているのである。