VR元年となった去年、2016年の師走、12月29日に中国、上海であるイベントが開催された。
人気女性歌手フェイ・ウォンの4年ぶりのライブである。「Feye’s Moments Live 2016」と銘打たれ、ヒット曲の数々が披露されたライブイベントは、世界で合わせて約9万人が観たといわれる。
とはいえ、中国の上海に9万人を収容するコンサートホールがあるわけではない。
上海で最大のライブ会場といわれる「上海体育館」もその収容人数は5万人だし、実際にフェイ・ウォンがコンサートを行った会場である「上海メルセデス・ベンツアリーナ」の収容人数は2万人に満たない。
ということは……?
カンのいい人ならお分かりだろう、このコンサートはメルセデス・ベンツアリーナで開催されると同時に、“VRライブ”として開催されたのである。会場で観た人に加えて、自分の家で、あるいはほかの場所で、VRヘッドセットをつけて楽しんだ人がいたのだ。
“VRライブ”は、中国発のVRアプリ「WhaleyVR」で配信された。
日本でも有名!フェイ・ウォンってどんな人?
「フェイ・ウォンの4年ぶりのライブをVRで……!」
この取り組みの“仕掛け人”になったのは、アメリカのVFX会社の「デジタルドメイン」。中国で動画配信サービスを手がけている「Tencent Video」と共同でVRライブを主催した。
ただ、この取り組みには歌手フェイ・ウォン自身の希望も反映されていたという。
ライブのプロデューサーを務めたサイレンス・レオン氏は、「フェイは世界中のいろんなファンがライブを楽しんでくれることを望んでいる」と明かしている。
ファン想いの歌手なのだ。
ところで、フェイ・ウォンという歌手について知らない人もいるかもしれないので、このへんでちょっと説明しておこう。
僕のような映画ファン、もしくはゲーマーの人なら、彼女の名前はすぐピンと来るに違いない。
ゲーマーでない僕は、映画ファンとして彼女の名前を知っている。
フェイ・ウォンは北京生まれの女性歌手で2017年の今年、48歳――だが、画像を見るかぎり彼女は今でも若々しい。
僕たち映画ファンを魅了した作品、『恋する惑星』(1994)に出演した頃のままだ。
フェイは、1990年代半ばに一世を風靡した香港の映画監督ウォン・カーウァイが発表した『恋する惑星』に出演した。
イギリスから中国への「返還」を控えた、1990年代半ばの香港――中華×西洋の雑多な文化が氾濫する地で、若者たちが短い恋をする。
そのきらめきのような瞬間を、自由自在に空間を飛び回るカメラワーク、ユーモラスでちょっぴり悲しいセリフとストーリーで描ききったチャーミングな作品だった。
この作品は、それまでの香港映画のイメージを一新させた。
ジョン・ウーの『男たちの挽歌』(1986)のような熱い男の戦いを描いたアクション映画ばかりではないことを、世に知らしめたのである。
フェイはその映画で、若く魅力的な警察官(演:トニー・レオン)に恋をしてストーカーっぽく彼を追いかける、軽食屋の娘を演じた。
やっていることは思いっきりサイコなストーカーなのだが、底抜けに明るく、ボーイッシュな爽やかさに満ちた若いフェイが演じる女の子はとてもステキに見えた。
映画を観る人は、誰もが彼女の魅力にメロメロにならずにいられない――そんな女優なのである。
彼女が歌った『恋する惑星』のテーマ曲「夢中人」も大ヒットした。
劇中の役柄のイメージとは違って、ふわりと軽く、透きとおるような声質がまた魅力的である。
近年はその美しい声を活かした歌手としての活躍が主で、2004年に同じくウォン・カーウァイ監督作として発表された『2046』に出演して以来、女優としての仕事はない。
ゲームの世界では、日本発のゲーム『ファイナルファンタジー8』でテーマ曲を歌ったことで有名だ。
次の“VRライブ”には、君も参戦しよう!
2016年末に開催された「Feye’s Moments Live 2016」は、フェイ・ウォンの4年ぶりのライブイベントだった。次のライブも、僕の予想だと結構な間があくのではないかと思われる。
しかし、すでに上にも紹介したように、フェイはファン想いの歌手だ。
きっと次のライブでも、VRを活用したサービスを利用できるようにしてくれるはずだ。今回は参戦できなかった君も、次こそはぜひ参戦しよう!